敬意逓減の法則

敬意逓減の法則とは
敬意逓減(ていげん)の法則とは、もともとは敬語として使われていた言葉が、長く、そして広く使われていくうちに敬意の感覚が薄まっていく法則のことです。よく知られた例としては、「きさま」や「おまえ」という二人称があります。「きさま」と「おまえ」は、それぞれ「貴様」と「御前」という漢字が充てられていることからわかるように、敬語として使われていた呼称でした。しかし、現代ではどちらかというと同等か目下の人に対して使う言葉になっています。このように、敬語からその敬意が失われていくことはしばしば起こるため、法則が見出されました。
なぜ敬意は逓減するのか
なぜ言葉から敬意が失われていくのかについては、いろいろな分析がなされていますが、「たくさん使われることで価値がなくなるから」という説が有力なように感じました。例えば、AさんがBさんに敬意を示したい場合、Bさんに対して用いる敬語をCさんにもDさんにも使っていると、明示的に差をつけることができず、結果として敬意を示すことができなくなってしまいます。他方、Bさんと接するにあたり、EさんやFさんもAさんと同じ敬語を使用していると、Bさんにとってはその敬語が当たり前になってしまい、Aさんからの敬意を感じられなくなる、というようなことも起こるでしょう。本当は、Bさんに対するAさんの敬意が失われたわけではないのに、その言葉の力が失われてしまうのは非常に興味深いです。さらに、ある言葉から敬意が失われてしまうと、それに変わる新しい言葉が生まれたり、別の言葉を付け加えて敬意を足す、というようなことも行われます。
敬語とは逆の言葉
敬語の直接な対義語ではありませんが、敬語とは逆の意味に受け取られるのが「ため口」です。日本語ほど敬語が明確ではない、外国語を使う文化圏で育った帰国子女が、目上の人にため口を使ってしまい微妙な雰囲気になる、というのはよく見る光景です。ところで、「ため口」は敬語のように逓減していくのでしょうか。面白いことに、ため口がどれだけ使われても、ため口の持つ失礼な感じが失われることはなく、一方でため口を使い続ける人物が「ため口を使うキャラクター」として認識される、という落ち着き方をするのが大半です。敬語の言葉の意味や用いられ方が変化したことに比べると、言葉の感覚は維持されながら人の評価が変わるというのは、大きな違いがあります。
敬語不要論
しばしば、グローバルを標榜する方から「敬語不要論」が唱えられることがあります。しかし、敬語やため口が上記のような認識に収束していくことを考えると、敬語が無くなることはしばらくなさそうです。なぜなら、敬語はどんどんと生まれていく一方で、ため口は人物に属するものとして認識されていくからです。個人が敬語を学んだり使ったりするのが面倒だからといっても、他の人を巻き込んで変えていくだけの力はおそらくないのでしょう。敬語もため口も、使いすぎたり使う場面を間違えるとメリットよりもデメリットが大きくなりますので、正しい言葉を適宜選んで使いたいものです。
記事タイトル | 敬意逓減の法則 |
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掲載日 | 2025年2月15日 |
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