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意図的に不便にする

不便を楽しむ

情報技術の価値が正しく評価されるようになってから数十年が経過し、わたしたちの生活は日ごとに便利になっています。一方で、便利すぎる世の中に反発するかのように、不便を楽しんだり意図的に不便にしたりする例もたくさん見られるようになりました。

レコードやカメラ

2022年のデータですが、アメリカにおけるレコードの売上枚数がコンパクトディスクの売上枚数を超えたそうです。レコードはコンパクトディスクに比べて大きくて扱いづらいし、曲ごとのスキップが簡単にできないなど不便なところが多いのですが、音楽を集中して聴く方法としてレコードを選ぶ人が増えているようです。また、スマホでの撮影やデジカメでの撮影が全盛の今、フィルムカメラに回帰する人やあたらしくチャレンジする人も増えているようです。こちらも不便さを取り入れることで、撮影そのものをより楽しんでいるようです。

コーヒー

コーヒーが好きだ、という人は多いですが、どこまで手間を掛けるかは人によって異なります。缶コーヒーで満足できる人もいれば、ドリップコーヒーでなければ駄目だ、という人もいますし、さらには自分で豆を挽いたり焙煎したりする人もいます。このような不便を受け入れる人は、コーヒーを淹れることを儀式として楽しんでいるのでしょう。

希少価値

すこし視点が変わりますが、不便さによって希少価値を演出するケースもたくさんあります。アーティストやアニメなど、人気コンテンツのオリジナルグッズはその製造数や販売数を制限することで特別感を演出し、手にした人の所有欲を満たそうとします。「予約の取れないレストラン」なども、もともとの理由は異なるかもしれませんが、同じ演出をしているケースもありそうです。

セキュリティ

他方、昨今のセキュリティ意識の高まりの中で、必然的に不便になってしまっているものもあります。ログイン時にパスワード以外の認証を求める多要素認証や、パスワードに数字やアルファベットだけでなく記号などを要求する複雑性の要件なども、意図的に不便にしている例と考えられそうです。ただし、これらは上に挙げた例と比べるとネガティブな印象を受ける人が多いように思います。

趣味は不便を許容する

ビジネスでも公共福祉でも、「不便を解決することは良いことである」ということを大前提としています。そんな世の中で、自分の好きなことには意図的に、そして積極的に不便を取り入れようとするのは、なかなか興味深い事実だと思います。筆者はこれまで、人に趣味を訊ねる際に「一番お金や時間をかけているものは何ですか?」という訊ね方をしていましたが、「不便でもやってしまうことは何ですか?」という訊ね方をしたほうが、より解像度の高い答えが返ってくるかもしれません。

記事タイトル意図的に不便にする
掲載日2025年6月7日
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