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続・ゲージツの秋

アンドリュー・ワイエス展

気になっていた展覧会のひとつ「アンドリュー・ワイエス展」に行ってきました。前回に取り上げた「デ・キリコ展」と同様に、今回も1人の作家の作品と人生を振り返ることができる展覧会でした。アンドリュー・ワイエスは、アメリカを代表する画家として知られていて、代表作である「クリスティーナの世界」は、20世紀のアメリカ美術において傑作と称されています。

ショック!

私も「クリスティーナの世界」という作品に、強く惹かれて足を運んだ訳ですが、会場で初めてあることに気がつきました。ポスターをまじまじと見ると「丸沼芸術の森が所蔵する『クリスティーナの世界』習作を含む貴重なコレクションの数々〜」と書かれています。要するに今回の展覧会では、代表作「クリスティーナの世界」を拝むことができませんでした。習作ではない完成した「クリスティーナの世界」は、ニューヨーク近代美術館が所蔵しているので「それを借りてくる予算が無かったのかな〜」とブツブツ言いながら、「いつか、MoMA(モマ)に行きたい」という楽しみが増えたということにしておきました。ブツブツ。

「追憶のオルソン・ハウス」

代表作こそ観られなかったものの、展覧会そのものは良い切り口でまとまっていて満足できました。作家が、30年以上もモチーフとして取り上げてきた「オルソン・ハウス」という古い屋敷で描いた作品を中心として、屋敷の模型なども展示されています。「クリスティーナの世界」も、まさにオルソン・ハウスでの光景を元に描かれたものでした。オルソン・ハウスには、先天的な病と対峙しながら懸命に生きるクリスティーナと、彼女を支える弟がひっそりと暮らしていたのです。

余白や余地

アンドリュー・ワイエスの作品は、とても日本人に好まれるのではないかという感想を抱きました。写実的で何が描かれているのか分かりやすい(誰が見ても上手な絵と感じる)だけでなく、余白の多さが「好まれそう」と感じた理由です。花を生けるにせよ、絵を描くにせよ、とにかくみっちり詰め込みたい欧米文化に対して、意図的に隙間(空間)を配置するのが日本文化だからです。

寂寥と静寂

オルソン・ハウスでの風景画には、空の青さはほとんど感じられません。そのため冬の空のような、無彩色に近い、白の分量の多い空が、アンドリュー・ワイエス作品のイメージとして定着しました。絵を観ていると、静けさが充満している印象を持つけれど、実際のその場所は海も近いことから、ずっと強い風の音が聞こえているのかも知れません。あるいは吹き続ける風の音も、そこに居る人にとっては常態化してしまって、やはり無音に近いのかもと想像が膨らみます。

明暗のコントラスト

一方で、照明のない建物の中から外の光を捉える作品群も印象的で、個人的に気に入りました。「陰翳礼讃」を思い出すというか、暗いお寺の境内から外のお庭を眺めるときのような、強いコントラストと静謐さが素敵です。描かれているものは、納屋にある穀物袋や、扉の前に置かれたバケツなど実に素朴なものばかりでしたが、不思議と物語の挿絵のように見えました。

懸命に生きる真摯さ

全体的に、どう見ても寂しい絵ばかりです。真夏の太陽のような活力や、人生をめいっぱい謳歌しているような明るさ、喜びがどこにも見つからない点では「なんで、こんな楽しくない絵見なあかんねん」という感想も十分出てきそうです。ただ、アンドリュー・ワイエスが描いた作品から、私は寂しさは感じても惨めさは無いように思えました。上手く言えませんが、たとえ物質的に豊かではなくても、他者からの憐れみは受け付けないと決意しているような、凛とした強さを感じられたのです。

ロケーション最高

ところで、開催地である「アサヒグループ大山崎山荘美術館」を個人的にとても気に入っていて、展覧会のスケジュールをこまめにチェックしては、足を運ぶ機会を窺っています。美術館としての規模は小さいながらも、「山荘」という名前にイメージがぴったり合う古い洋館と、それを取り巻く庭園は美しいだけでなく、ぼぉーっと寛ぎたくなる素敵な空間です。建物の内部も、思わず写真を撮りたくなるレトロなディテールがそこかしこに見つかるのですが、ほとんどの場所(展示作品以外の施設そのもの)で撮影禁止なのが残念無念。ですが、美術館周辺の大山崎の豊かな自然も相まって、エリアとしても好きな場所です。近くにある「サントリー山崎蒸留所」での工場見学も(予約が必要ですが)おすすめです!

記事タイトル続・ゲージツの秋
掲載日2024年10月12日
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