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恐れ入谷の鬼子母神

べらぼう

子どもの頃に時代劇を見ていたり、ちょっと落語が好きだったりしたせいか、日常的に「べらぼう」という言葉をよく使ってしまいます。でも最近は、うっかり口にしないように気をつけています。現在、NHKの大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」が放送中なので、周囲に「テレビでやってるから(「べらぼう」って言ってる)」と思われちゃうと恥ずかしいからです(つまらない自意識ですね)。

梵天丸も、かくありたい

引き続き個人的な話で恐縮ですが、確認してみると大河ドラマをきちんと観るのは38年ぶりのことでした。奇遇と言うべきか、「べらぼう」で田沼意次を演じている渡辺謙さんが主演した「独眼竜政宗」以来の大河ドラマを、今とても楽しんでいます。田沼意次と言えば、元祖「米騒動」の中心人物。企画や撮影のタイミングを考えると偶然だと思われますが、ドラマと現代がリンクする部分も多く、興味深い時代設定です。

NHKで「吉原」ですって?!

そんなに久しぶりに大河ドラマに興味を抱いた理由は、今回は「吉原」が舞台と聞き及んだからです。朝ドラでは、市井の人々の暮らしを取り上げることが多いものの、大河ドラマと言えば、天下人やそうでなくても政(まつりごと)に関わる人物や、やんごとない身分の方を中心に描くイメージが強かったので、その意外性にまんまとやられました。現在放送中のドラマの後半では、日本橋に舞台を移していますが、前半は吉原やそこで働く人たちの様子をかなり丁寧に紹介していて「NHK、攻めてるなぁ」と感心しました。

メディア王に俺はなる!

「べらぼう」の主人公「蔦重」こと蔦屋重三郎は、インターネットが普及した情報革命後の現代においても通用しそうなほど、「メディア王」と呼ぶに相応しい面白い人物です。ニーズ(Needs)のもっと先にある、ウォンツ(Wants)を形にしていくなんて、まるでリンゴ(Apple)の人みたいですね。蔦重なら、ウルトラ・ハイパー・メディア・エグゼクティブ・トレメンダス・ファービュラス・プロデューサーを名乗っても許せます。

豊かな風俗に花咲く文化

もちろん花魁の人生は華々しいだけではなく、まして一介の女郎であれば、艱難辛苦の伴う一生だったと想像します。けれども江戸文化をもっと広い視点で眺めてみると、蔦重の仕掛けるエンタメが成り立つほど当時の人々の識字率は高く、庶民まで学ぶことや楽しむことを享受できていた(お金やモノの範囲を超えた)豊かさが見てとれます。歴史の大半は戦争の勝ち負けや、強者・勝者の紡いだものですが、一般の人々の暮らし(風俗)や文化の記録も同様に貴重な歴史ですし、後継者である今を生きている私たちに矜持を与えてくれるものだと思います。大河ドラマを「フィクション」と揶揄する人も多いですが、フィクションのすべてが嘘偽りではないので「昔の人って、すごい!」と最終回まで、わくわくして見届けたいです。

記事タイトル恐れ入谷の鬼子母神
掲載日2025年7月12日
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