効率化を阻むもの
効率的なことは良いことだ
日本の労働生産性が低い、と指摘されるようになって久しいです。例えば2022年、日本の1時間あたりの労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している38カ国中、30位でした。ひとりあたりの労働生産性は、上位のアイルランド(207,353ドル)やルクセンブルク(158,681ドル)、アメリカ(141,370ドル)などには遠く及ばない、78,655ドルということです。
労働に限らず、「効率が良いこと」は良いことです。効率が良いと、同じリソース(費用や時間)でより多くの利益が得られますし、そもそもリソースは有限だからです。それがわかっているにもかかわらず、効率化をやらない、あるいはできないのは、何故なのでしょうか。
効率化を阻むもの
「効率化をしよう」と誰かが思い立った時に、それを阻むものがいくつかありそうです。これらを系統立てて整理すると、「権威と歴史」「変化を嫌う人」「組織故の問題」の3つにまとめることが出来ました。
権威と歴史
コミュニティ内の権威が効率化の邪魔をする場面はよく見られます。会社であれば社長や上司が、学校であれば先生や先輩が、家庭であれば親や親戚が、足を引っ張るとはいかないまでも効率化を妨げていたり、させてくれなかったりすると感じている人は多いのではないでしょうか。特に、承認者(権威)と作業者(権威以外の人)との距離が物理的に、あるいは精神的に離れている場面ではよく起こる事例です。
たとえば、会社で新入社員が効率のあがる画期的なやり方をみつけたとしましょう。それを先輩や上司に提案してみたものの、あまり良い反応が返ってきませんでした。新入社員から見たら効率の良くないやり方ですが、先輩や上司はこのやり方で何年も仕事をしてきているからです。この「自分たちはこうやってきたから」を覆すだけの説得力は新入社員にはありません。
「歴史」も権威の一つの形です。たとえば、田舎での生活に憧れた若年夫婦が、地方に移住してきたとしましょう。ある時、やり方を少し変えるだけでお祭りにかかる費用を5分の1にできることがわかり、思い切って提案してみました。すると、街の顔役が「ここではこのやり方で400年以上やっているから」とけんもほろろに断られてしまいました。「400年の歴史」を持ち出されると、ぐうの音も出ません。
変化を嫌う人
効率化は、その規模や方法を問わず、変化を伴うものです。そして、人は年齢を重ねれば重ねるほど、変化を嫌うものです。高齢化が進む日本では、コミュニティの構成員に中年以上のメンバーが占める割合が高くなっており、変化を望んでいない空気がそこかしこに満ちているのは容易に想像できます。
若い人の中にも、できる限り面倒なことはしたくない、と思っている人は多いように思います。「面倒かどうか」がその人の行動基準になっている場合です。本当は少しの面倒を引き受けるだけで、より大きな面倒から開放されることもあるのですが、その一歩を踏み出せないのも人間の性なのかもしれません。
組織ゆえの問題
ハイコンテクストな関係が好きな日本人だからこそ、組織で動くときに鈍重になってしまうこともあります。いわゆる「空気を読む」行動です。コミュニティが大きくなればなるほど、とりあえずは現状維持が前提となっていることはよくあります。「効率化」は「現状維持」とは対局の存在なので、空気を読みながら効率化を提案したり実践したりすることは難しいようです。
また、給与や雇用においての年功序列はほとんどみられなくなりましたが、やはり年齢や経験による暗黙の上下関係や求められる振る舞いは存在します。たとえば会社では、若手社員は「経験の浅い自分のような若輩者が効率化を持ち出すなんておこがましい」と思い、中堅社員は「若手のような青臭い効率化を言い出すのは査定にも響くし、結局やるのは自分だからやめておこう」と思い、ベテラン社員は「効率化のためだからと下手に新しことを提案するのは、パワハラを疑われるからやめておこう」と思ってしまうのです。
効率化がわからない
これまでにあげた3つの原因は、効率化をしたい人がいて、その周辺やコミュニティに問題があるかもしれないケースでした。しかし、一番多いのは「効率化がわからない」場合かもしれません。「効率化がわからない」には2種類あります。ひとつは「効率化のやり方がわからない」場合、もうひとつは「効率化しなければいけない理由がわからない」場合です。
前者は学校教育と実社会とのズレをうまく消化できなかった場合に起こります。これまで、学校では言われたとおりに勉強して、周囲からも優秀と思われていた人が、社会に出て「はい、今日からはいろいろ考えて効率よくやってください」と言われて、上手く動けない事があるのも理解できます。もしくは、学校の勉強の仕方さえわからないまま社会に出てしまい、勉強よりもさらに難しい問題に取り組まなければならなくなった人も該当しそうです。
後者は、自分や自分の所属している組織を客観視するのが苦手で、そもそも労働生産性が低いことに気がついていない場合です。また、視野が狭く、短期的な未来しか予想ができないので、効率化すると逆に効率が悪くなるのでは、と考えている場合などです。
実際は複合的な原因
「効率が悪いのはなぜか」の答えは、人によって、組織によって異なるとは思いますが、実際は上に挙げた理由や原因が複合的に絡んだものであると推量します。自分や自分が所属するコミュニティの効率はどうか、もし悪いのであればそれは何故なのか、考えてみてください。
効率だけが全てではないけれど
一方で、「効率化は良いことだから、効率化しましょう」といっても、何にでも当てはまるわけではないことも知っておくべきです。世の中の活動には、効率の悪いことを楽しんでいる場合(例えば趣味)や、効率よりも大切なこと(例えば歴史やチームワーク)がある場合、さらに弱者への気遣いを包含している場合があるからです。
とはいえ、効率化が求められているところでやらなかったりできなかったりするのは、より複雑性の増す社会で競争していくには頼りなく感じます。日々のちょっとしたことから効率化を意識して、いざというときに「効率よく効率化ができる」準備をしておきたいものです。
記事タイトル | 効率化を阻むもの |
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掲載日 | 2024年3月23日 |
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