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斬新すぎるアイデアは失敗する?ちょうどよいアイデアとは

斬新すぎるアイデアは使えない

誰でも「これは良いかもしれない」という素晴らしいアイデアが降りて来ることがあると思います。しかし、大抵はありきたりのアイデアか、検証するまでもなくうまくいかないアイデアかのどちらかです。稀に、そのアイデアが斬新で画期的なものであることに気がつくこともあるでしょう。しかし、斬新すぎるとそれは「ちょうどよいアイデア」ではない可能性が高いです。

ちょうどよかったアイデアの例

「クォーツ時計」は1969年にセイコーが発売した高精度の腕時計です。当時、機械式時計(ゼンマイと振り子で動く時計)の高精度化競争が頭打ちになっており、機械式時計とは異なる仕組みでの高精度化が研究されていました。セイコーは世界で初めて、市販の腕時計にクォーツを搭載すると同時に、その特許を公開することで機械式時計業界に大打撃を与えました。現在でも、我々が使っている時計の大半がクォーツ時計です。

「MD(ミニディスク)」は、1950年代以降使われてきたカセットテープ(コンパクトカセット)を代替するメディアとして、ソニーが開発しました。CDの普及後、高音質なデジタル録音の需要に答える形で投入され、1990年代に多く使われました。同時期にはCD-Rなども存在していましたが、パソコンを使わずCDなどを録音できる手軽さで、若年層を中心に普及しました。その後、フラッシュメモリを利用したデジタルオーディオプレーヤーに代わられる形で縮小していきました。

「i-mode」は1999年からNTTドコモが展開した携帯電話用のインターネットサービスです。メールの送受信やウェブページの閲覧が可能で、多様なサービスが利用可能でした。初めてのインターネット利用がi-modeだった人も多かったようです。海外展開も行いましたが、日本ほどの成功には至らず、iPhoneの登場によりスマートフォンに食われる形で衰退していきました。

何がちょうどよかったのか

いずれも斬新で画期的な商品やサービスですが、支持された理由は何処にあるのでしょうか。

「クォーツ時計」はその発売当初、自動車と並ぶくらいの高額で販売されましたが、他社もクォーツ時計の製造販売に参入することで、価格はみるみる落ちていき、機械式時計と並ぶくらいになりました。腕時計を身につけることが大人の嗜みであったこと、機械式時計に比べると頑丈であったこと、毎日ゼンマイを巻いたり時間を合わせたりする手間がなくなるなど便利さがわかりやすかったことなどがヒットの理由として考えられます。

「MD」は、レンタルビデオ店などが普及しており、CDをレンタルして録音するスタイルが一般的であったこと、カセットテープを使っていた人たちが同じ感覚でMDを使用できたこと、携帯音楽プレーヤーが一般的になっていたこと、カラオケが流行しており「誰でも知っている曲」が存在していたことなどが相まって成功したと推量します。

「i-mode」は携帯電話が普及していたこと、利用料を通信データ量に応じた課金制にしたこと、ネットバンキングなどの実用サービスだけでなく、待受壁紙や着メロなどのエンタメ的サービスも充実したことなどが爆発的な普及の要因のようです。

いずれも、使用した技術の成熟度、リテラシーが高くない人まで巻き込む事のできる程度の新しさ、創造する需要の程度がちょうどよかったことがポイントのようです。

ちょうどよくなかったアイデアの例

「Newton(MessagePad)」はAppleが1993年から1998年にかけて販売していた携帯端末です。手書き認識機能を備え、現在のスマホやタブレットのような使い方を想定していました。一部、熱狂的なユーザーを獲得しましたが、商業的にはうまく行ったとは言えない製品となりました。

「サテラビュー」は、任天堂が1995年から始めたスーパーファミコン向けの衛星データ放送サービスです。スーパーファミコンにモデムを接続し、BS放送からゲームをダウンロードできるなど、現在では当たり前となっているソフトウェアのダウンロード販売を行っていました。1996年以降はサービスが縮小していき、2000年にはサービスが終了となりました。

「セカンドライフ」は2003年にリンデンラボがスタートしたメタバースです。コミュニケーションだけではなく、デジタルコンテンツの制作や社会活動を行うことができ、セカンドライフ内で得た仮想通貨を現実の通貨に換金できるなど、仮想空間の商業的サービスとして話題となりました。2020年以降もサービスは継続していますが、一時ほどの注目をあびることはなくなりました。

何がちょうどよくなかったのか

これらの商品やサービスが想定よりうまくいかなかったのは以下のような理由が挙げられます。

「Newton」は価格が高額であったことや、肝心の手書き認識がいまいちだったこと、実装された機能に対してCPUが貧弱であったことなどが万人受けしなかった理由のようです。

「サテラビュー」は、衛星放送契約が前提だったため、店頭販売されなかったことや、そもそも若年層が衛星放送を利用するのが難しかったこと、そして一番はソニーやセガの次世代型ゲーム機が登場したタイミングであったことなどが普及しなかった理由とされています。

「セカンドライフ」は当時、利用するために必要なパソコンや回線の要求レベルが高かったこと、ユーザー同士が集まれるコミュニティ的な使い方が上手くできなかったことなどが盛り上がらなかった原因のようです。また、セカンドライフの利用は有料でしたが、当時のインターネット経由のサービスは無料が当たり前だったことが最大の理由かもしれません。

いずれも画期的なサービスでしたが、その本当の実力を知るには実際に利用してみるしかなく、一方で利用開始には技術的/費用的なハードルが高かったことがポイントとなったようです。

「ちょうどよい」をつくる

ここまでのまとめとして、色々な理由で「ちょうどよい」から外れてしまうと、いくらアイデアが斬新であったり画期的であったりしてもうまくいかないことがあるようです。そこで、この「ちょうどよい」を意図的に作り上げたと思われる例をいくつか挙げてみます。

「iPhone」はAppleのスマートフォンです。登場以降、スマートフォンの代名詞となっていますが、その人気が爆発するまでの過程ではAppleの慎重な姿勢がみられました。一番は音楽プレーヤーである「iPod」を事前に販売していたことです。パソコンが主力商品であるAppleが携帯端末を販売することへの違和感の払拭や、携帯端末とパソコンをつなぐ習慣をつけること、またキーボード以外での端末操作になれさせることなど、iPodがあることでユーザーが教育された事柄はたくさんあります。本格的なiPhoneの普及は「iPhone 3G」からですが、ユーザーの需要、インフラの充実、「App Store」の開始など、満を持してのリリースとなっています。

「ドラゴンクエスト」はスクエアエニックスを代表するゲームですが、最初のドラゴンクエストはファミリーコンピューターで1986年に販売されました。当時、ファミコンはすでに大人気でしたが、多くはアクションゲームやシューティングゲームであり、ドラゴンクエストのようないわゆるロールプレイングゲーム(RPG)は皆無の状態でした。RPGは他のゲームに比べてその「複雑さ」が魅力でもありますが、一方で初心者やライトユーザーには難解であると受け取られていました。またゲームの目的も明示されておらず、その自由度の高さはユーザーを困惑させると考えられました。そこで、似たような画面構成や操作感であるアドベンチャーゲームを事前に発売したり、ストーリーができる限り一本道になるように設計したり、すぐにゲームオーバーにならないようエリアによって段階的に敵を強くするなどの工夫が行われました。また、指示を出せるキャラクターが多いとユーザーが大変であると考え、ドラゴンクエスト1では1人、ドラゴンクエスト2では固定の3人、ドラゴンクエスト3ではいろいろな組み合わせで最大4人となるようにするなど、シリーズを通じて段階的に難しさを増していく工夫もなされています。

ちょうどよいアイデアとは

もし、思いついたアイデアに賛同が得られないときは、そのアイデアが「ちょうどよい」から外れている可能性を疑いましょう。ただ、多くの場合、斬新すぎてちょうどよくないのではなく、古すぎたりベタすぎたりして反対されていることも多いでしょう。あるいは斬新だけれども、それを説明する力が足りていない可能性もあります。

アイデアがちょうどよいかどうかは、最終的には実行してみなければわからないかもしれません。この記事を書くにあたりいろいろ調べたところ、2000年代以降、日本企業が「ちょうどよい」を見誤ることが多いように感じました。準備不足でリリースしてしまったり、準備はしたけれど臆してリリースまで至らなかったりなどです。AppleがNewtonの失敗を活かしてiPhoneを成功させたり、任天堂が数々の先進的な挑戦と失敗を経て大成功を収めているように、ある程度まで煮詰まったアイデアは「ちょうどよい」にあてはまらなかったとしても、次に生かせる資産となることは間違いないようですので、アイデアを形にすることや失敗することを恐れてはいけません。また、「ちょうどよい」を調整できる方法も合わせて考えられることが「アイデアを出すこと」と言えるのかもしれません。

記事タイトル斬新すぎるアイデアは失敗する?ちょうどよいアイデアとは
掲載日2023年11月4日
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