技術の逆流が面白い
上流から下流へ
昭和から平成にかけて、技術は上流から下流に流れていくものでした。
たとえば、F1(フォーミュラ1)で培われた技術は市販の自動車に多く採用されています。古くは空気力学の応用から、パドルシフト(半自動式変速機)やカーボンセラミックブレーキに代表されるスポーツカー的な要素、運動エネルギーの回生システムやリモート診断など近年の電気自動車にも使われる技術まで、多岐にわたります。
「NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発した商品」と聞くと、心躍る方も多いのではないでしょうか。NASAで利用されていた、あるいはNASAで研究されていたものとしては、身近なものとしては眼鏡のレンズやフリーズドライの技術、ワイヤレスヘッドホンの技術、さらにはノートパソコンやソーラーパネル、スマホのカメラなどもその範疇にはいるかもしれません。
下流から上流へ
これまで「技術は上流から下流」が当然だと思っていましたが、2024年になってその逆流が少なからずあることに気が付きました。
2024年1月20日未明、日本の月探査機「SLIM」が月に到着しました。しかし、想定していた姿勢とは異なる方法で着陸したため、予定していた作業が実行できるかどうかが懸念されていました。着陸したSLIMが転倒している様子を写真で確認することができましたが、「これはどうやって撮影したのだろう?」と思った方も多いと思います。
実は、この写真はJAXAがタカラトミー、ソニー、同志社大学と共同開発した「SORA-Q」という小型月面ロボットが撮影したものでした。タカラトミーといえばトミカやリカちゃん、プラレールなど、子どもに向けたおもちゃのメーカーとして有名です。「子どもじゃないんだから」とか「ガキの使いじゃない」とか「おもちゃみたいな出来だ」など、何かと卑下されることの多かった「子ども」や「おもちゃ」の分野ですが、SORA-Qでは子ども向けのおもちゃであるゾイドやトランスフォーマーなどの変形技術を応用した、ということです。
おもちゃの技術が宇宙開発にまで逆流した、と感じました。もちろんこれまでも「下流から上流」はあったと思います。いくつか紹介してみましょう。
上流から下流へ、下流から上流へ
折り紙は古くからある日本伝統の遊びですが、ソーラーセイル(光などを推力に変える)を宇宙で展開したり収納したりするのに折り紙の技術が使われました。 これは「ミウラ折り」と呼ばれ、対角線部分を押し引きするだけで紙の大きさを問わずスムーズに展開/収納ができます。
海などを渡す橋を作る際は、橋脚を中心にして左右にバランスよく橋を伸ばしていきます。これは身近なおもちゃであるヤジロベエの応用です。同様に、「塔頂免震構造」と呼ばれる免震構造は、中央のシャフトを軸にバランスよく居室を配置し、地震の際にバランスを取る仕組みです。これもヤジロベエの応用と言われています。
「ハプティクス」と呼ばれる触覚を再現する技術は、テレビゲームでよく知られるようになりました。テレビゲーム上で精度を高めたハプティクス技術は、遠隔医療や外科手術ロボットなど先端医療に採用されています。
少し文脈は違いますが、身近な技術が複雑な技術に勝った例もあります。QRコードはバーコードよりも情報量が多く、商品管理や広告などに用いられています。都営地下鉄がホームドアを設置するにあたり、無線を使ってドアの開け閉めをコントロールしようとすると20億円もの費用がかかることがわかりました。これをQRコードを使う仕様に変えたところ、わずか270万円で済んだそうです
既存の技術やアイデアに新しい価値を見出し、社会に変化をもたらすことを「イノベーション」といいます。技術は上流から下流に流れるだけでなく、下流から上流に逆流したり、またそれが下流に流れたりを繰り返し、発展を続けていくのは面白いですね。
記事タイトル | 技術の逆流が面白い |
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掲載日 | 2024年3月9日 |
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