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セルフディベートこぼれ話(その2)

捨てた方も、ちゃんと重要

「考えるネコ、想像するイヌ」のコンテンツ「セルフディベート」の目的は、提示した意見AとB「以外」の、新しい視点を見つけたり、折衷案を考えたりしてもらうことです。そのため、できるだけ意見AとBは甲乙つけがたい、簡単にはどちらと決めにくい形になるように、しばしば情報量を調整しています。バランスを取るために、あえて取り上げなかった情報の中には興味深いものもあります。今回は、取り上げずにボツにしたものをご紹介したいと思います。

フランスは宿題禁止

宿題について考える」をまとめる際に知り得た情報です。フランスでは、1956年から法律によって小学生の筆記による宿題を禁止しています。「筆記による」と限定しているのは、その日の授業で学んだ部分を「教科書などを読んで復習する」宿題は認めていることを表しています。近年であれば、子どもを伸び伸びと育てようとか、子どもの自由(学校以外での時間)を尊重しようとする動きがあるのは自然ですが、「1956年」の時点でその発想を持っていたなんて、と驚きました。

日本との大きな違い

しかし、その法律の根底には「教育格差を広げないようにするため」があると知り、(子どもの自由のためではなく)フランスが移民の多い国だからこそなのだと気づきました。母国語がフランス語ではないことから、初等教育の段階で授業について来られない生徒が一定数いる状況では、教師がフォローできない家庭での宿題を課すことは、確かに習熟度の差をより広げることになりそうです。また、そのような家庭ではある程度の年齢に達した生徒の放課後は、家計を助けるために働く時間に充てられることも予測できます。日本との状況の違いが明確だったこともあって、ディベートでは取り上げませんでした。ただ、今後は日本も移民を多く受け入れる必要があり、その変化はすでに始まっているので、同じ課題に直面しつつあるのかも知れません。

フランスの抱える問題

日本が抱えている問題を改善したいとき、フランスは少子化対策が上手く機能していたり、そもそもお洒落なイメージがあったりするせいか、メディアでは目指すモデルケースとして取り上げられているのをよく見かけます。もちろん、そんなフランスにも問題はある訳で、公立小学校での筆記の宿題禁止については、反対する声も多いようです。そのため建前では禁止でも、ある調査によると、フランスの学校の教員のうち66.5%が筆記の宿題を出すと回答しています。また近年、OECDの学習到達度調査の結果では教育における不平等が深刻であると示され、宿題禁止では教育格差が解消されていないことが分かりました。これまでも、家庭ではなく放課後の学校で教師のフォローのもと宿題をこなせるような対策をしてきたようですが、2019年からは義務教育の開始年齢が6歳から3歳に下げられました。(多国籍な生徒に対して)言語能力に関する不平等をなくすためには、3歳から6歳という年齢が重要である、という研究結果を反映しているようです。

小ネタ集にできなかった

「お仏蘭西では、こうなんざます〜」とスカした感じになってしまいましたが、当初はもっと他愛のない、ボツにしたネタをいくつかまとめてご紹介する予定でした。たとえば、「昆虫食について考える」をまとめる際に見つけた、「昆虫記」で有名なファーブルが、アリストテレスの真似をして虫を調理して食べてみたという情報。ファーブルの虫への好奇心は、観察するだけに留まらない本当に強いものだったんだなと感心しましたが、「ファーブルも食べたんだから、もっと昆虫を食べていこう!」みたいには話を展開できないと判断して、割愛しました。ファーブルが日本だけで有名という(母国のフランスでさえ、あまり知られていない)点も、説得力に欠けると感じてしまった要因です。とにかく、気楽な小ネタ集の形にならずに個人的には残念な気持ちですが、セルフディベートの編集後記みたいなものは今後も時折披露していきたいと思っています。

記事タイトルセルフディベートこぼれ話(その2)
掲載日2024年5月25日
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