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世襲について考える

世襲について考える
前提となる事実
日本における、1955年の世襲率(親の職業を継ぐ割合)は43%でしたが、2000年代の世襲率は10%です。また、1995年までは世襲が年収に与える影響は0円でしたが、2000年代以降は世襲した人の方が世襲していない人よりも年収が高くなっています。

世襲を肯定する

有利に、優位に、継承できる

一般に、世襲はその職や地位を引き継ぐことですが、世襲することによってポスト以外のものも引き継ぐことができます。例えば、政治家の場合は「ジバン(地盤)」と呼ばれる後援会など後押ししてくれる存在や、「カンバン(看板)」と呼ばれる選挙区での知名度、そして「カバン(鞄)」と呼ばれる資金管理団体を親から継承しています(参考01)。選挙活動においては極めて重要と言われている3つの「バン」は、獲得するのに時間がかかりますが、世襲であればその時間を省くことができます。その結果、初当選の年齢を下げることができ、当選回数も重ねられるので、政治活動を充実させることが可能となります。他に、世襲率の高い職業の一つである医師の中でも、開業医については、病院の施設や設備、地域での知名度と信用を引き継げる点は、経営面で明らかに有利です。

血筋による誇りと強み

現代では希少とも言えるほど、世襲へのこだわりを持つ「歌舞伎」では、幼少期から徹底した英才教育を与えられるというメリットがあります。本人の意志に関係なく、道が決められていることへの重圧は否定できない一方で、選択肢の多すぎる現代社会において「自分にはこの道がある」という事実が、救いに感じられる場面も多いはずです。また血筋という拠り所があればこそ、伝統芸能という枠組みの中にあっても大胆な改革を起こすことができています(参考02)。対して、非世襲である「文楽」は、伝統を重んじるあまり観客離れが進み、公金での補助が必要になっています(参考03)。文楽の後継者が歌舞伎のような「血筋」と無縁であることが、観客を引き寄せるための、引いては伝統芸能の存続に必要な変革を起こせない要因になっています。

他人との争いから解放される

世の中に存在するポスト(職業的地位)のうち、最も優秀な人材が就かなければいけないものは限られています。優秀な人材を選抜するためには多くのコストが必要であり、その過程では争いも生じ易くなります。つまり、世襲が許されるのは平和で安定していることの証左なのです。また、世襲という形で自動的に職業に就くことができれば、長期無業者(ニートやフリーター)や、孤立無業(SNEP)の増加を抑制することにもつながります。これは、ニートやSNEPに属する人々にとってハードルの高い「履歴書を書く、面接を受ける、見知らぬ人と会話する、自分を売り込む」ことから解放されるからです(参考04)。

世襲を否定する

機会の平等を妨げる

仕事や地位などのポストに空席が出た場合、そのポストを獲得するための選考に参加する機会は公正でなければいけません。つまり選考の過程においては、仕事をこなせる能力があるのか、あるいはこなすための努力をどれだけするのかという基準で判断される方が健全です。選考基準や選考過程に、生まれに関する情報、たとえば性別や年齢、人種や家柄などが影響を与える状況は公正とは言えず、差別につながる可能性もあります。とくに公的な職業や地位については、選抜した結果について監視するものがないため、世襲によるポストの決定は危険と言えます。民間企業であれば、不適切な人事決定によってポストに就いた人物が期待される成果を上げられなければ、企業は外部からの評価が下がり淘汰されますが、公的な組織ではそのような監視機能が弱く、自浄作用も働かないからです。

多様性が失われる

日本の国会における世襲議員の割合が、国際的に見て非常に高いという事実があります(参考01)(参考02)。父親、あるいは祖父や叔父から地盤を引き継ぐという形で「優位に当選を果たす世襲議員」の存在は、非世襲の候補者の参入障壁となっています。国会議員とは「全国民を代表して国政の審議をする」仕事であるため、その人選には多様性が求められるはずです(参考03)。世襲議員の多くは、出馬する選挙区は地方であっても、東京で生まれ裕福に育てられたケースが多いことから、経済格差や都市部と地方の格差に鈍感になっている傾向があります。また、医師や歌舞伎のように「英才教育」が徹底されておらず、ふさわしい能力と意欲のない者が、親の死去などによって突発的に議員になってしまう点も問題視されています。

親心が裏目に

私財だけでなく、長年の努力によって手に入れた自らのポスト(地位や仕事)を子どもに譲りたいと考えたり、自分の経験した苦労を子どもにはさせたくないと考えたりすることは、親として当然の感情です。しかし、その苦労が子どもにとっても職業人としての能力を形成するのに必要だった可能性があります。用意されたポストに対して実力不足である状況は、かえって子どもを苦しめることになります。また、そうならないように幼少期から英才教育を施したとしても、子どもにとって適性なポストかどうかの判断も必要です。「親の仕事を継がなければいけない」という過剰な重圧によって、精神的に追い込まれてしまう子どもの存在も無視できません(参考04)。

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