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定年制度について考える

定年制度について考える
前提となる事実
アメリカやイギリスなどでは、労働する権利を守るために定年制度は原則的に禁止されています。一方で、ドイツやフランス、日本などでは、年金の支給開始年齢と定年年齢を合わせる形が取られてきました。定年制度のあるなしに関わらず、世界的には年金の受給開始年齢が引き上げられる傾向にあります。

定年制度は必要

人生の節目としての役割

2020年以降、日本人の平均寿命はおよそ80〜90歳です(参考01)。これをふまえると、人生のどこかで区切りを設け、人生設計の修正や調整をするターニングポイントが必要です。ところが、それを自ら設定することは簡単ではありません。定年が視野に入った50代の男性正社員を対象にした調査では、定年までに転職に踏み切れる人は全体の4分の1以下でした(参考02)。多くの会社員にとって、転職などを能動的に行うのは難しいようです(参考03)。たとえ企業側から決められた節目であっても、定年退職は人生のセカンドステージを設計するきっかけとして最適です。定年に達した後、働き続けるにせよプライベートの時間を充実させるにせよ、「定年」という節目が、人生の終盤を見直すための重要な契機となっています。

組織の成長と新陳代謝に必要

定年制度は、組織に新陳代謝をもたらします。在職者がいる状態でポストを無くすことは、組織にとって難しいものです。高齢者の退職とポストの整理とのタイミングを合わせれば、組織の構造を改善することができるでしょう。また、人件費の高い高齢者を退職させることで、多くの若手社員を迎え入れることができます。若手社員は、組織に新しい価値観やアイデアを持ち込んでくれる存在です。つまり人材を入れ替えることで、幅広い世代の価値観が反映された柔軟な組織づくりを進められます。もし定年制がなくなると、経験による信頼や安心感を理由に管理職の多くを高齢者に任せてしまう傾向が強くなります。しかし定年制度があれば、若手社員に責任ある仕事を任せる機会が生まれて、将来の組織を担うリーダーを育成することもできるのです(参考04)。

人材の流動化と社会全体の活性化

定年制度は人材の流動化を促し、結果として社会全体の活性化につながります。定年退職者は長年の経験と知識を蓄積していますが、他の組織に移籍することでそのノウハウをより有効に活かすことができるかもしれません。また、定年退職者が起業することで新たなビジネスが生まれれば、雇用の創出にも貢献できます(参考05)。ある調査では、ボランティア活動や地域活動に参加しない理由として、「時間がない」という回答が最多で、45.3%を占めていました(参考06)。定年退職を機に手に入れた、ゆとりある時間を有効活用し、社会貢献活動に参画する人が増えれば、社会全体がより豊かになるでしょう。

定年制度は不要

仕事による自己実現

働くことは、想像以上に「生きがい」と直結しています。仕事は金銭を得るだけでなく、他者や社会とのつながり、自らが誰かの役に立っていることを実感できるなどの価値を包含しているからです。例えば、FIRE(投資などを活用して働かずに生活するスタイル)を達成している人の中には、経済的な理由以外に再び働き始める人が存在します。多くは、仕事から離れて好きなことをするだけでは幸福度が上がらないと実感した人たちです(参考01)。また、引退後の人生を楽しめずに鬱状態になる「燃え尽き症候群」の存在も無視できないため(参考02)、「生涯現役」であることは幸福度の高さと関係がありそうです。

働く側の自己肯定感

60代の男性を対象にした調査では、定年制のない会社で働き続けている人のほうが、定年退職後再雇用されている人よりも、仕事への満足度が高いという結果が出ています(参考03)。双方の結果の差は、「定年」という区切りを企業側から明示されることが心理的なプレッシャーとなり、仕事に対するモチベーションを下げている可能性を示唆しています。

自由意志と人生プラン

定年後の長い人生を考えると、1つの会社で定年まで働き、その後は悠々自適に過ごすという従来のライフプランは現実的ではありません。2020年時点での平均寿命は男女ともに80歳代であり、さらに死亡最頻値(死亡者数が最も多いボリュームゾーン)となると、男女ともに90歳前後です(参考04)。長寿の傾向は、先進国においては年金の受給開始年齢を引き上げています(参考05)。また国内では、終身雇用がスタンダードではなくなり、定年が視野に入ってきた50代で転職を経験した人のうち、解雇、退職勧奨、転籍などの「会社都合」による離職は、38.1%を占めます(参考06)。いつかは転職するのであれば、退職金への期待がちらつく定年というものが最初から無い方が、有意義な選択ができるはずです。

人手不足の解消

定年制度を撤廃することは、社会全体の活性化にもつながります。例えば、シニア層が持つ豊富な経験や知識は、企業側にとっても価値の高いものであり、定年制度に縛られないことで優秀な人材を確保し続けられます(参考07)。また、あらゆる業種において人手不足が叫ばれるなか、現役世代としてシニア層を取り込めれば、職場によっては活用しにくい「産休」や「育休」「介護休暇」なども取得しやすくなり、幅広い年代にとっての働きやすい社会が実現します。

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