擬似素人効果

擬似素人効果

通常、商品やサービスは、デザインが洗練されていたり、完成度が高かったりする方が良いとされます。しかし、意図的にそうしないことによって、魅力を引き上げたり、通常とは異なる訴求をしたりすることができます。これは「素人っぽさ、安っぽさ」が生む効果であると仮定し、「擬似素人効果」と呼ぶことにしました。擬似素人効果について考察し、まとめました。

擬似素人効果の例

書店の手書きPOP広告

本の内容や売れ行き、著者の経歴などを記したPOP（Point of Purchase）広告を、わざわざ手描きで行う書店があります。デジタル技術を使って整ったPOP広告を作成するのは簡単ですが、手描きのほうが販促効果が高いことが知られています。

量販店の店頭や折込広告での価格表示

量販店では、価格の表示に独特のフォントを用い、赤や黄色、蛍光色などで注目させます。本来一番訴求すべき商品の仕様ではなく、価格に重点を置いて情報発信していることがポイントです。

芸能人

1980年代以降、「素人っぽさ」を売りにしたアイドルや芸人が人気を集めるようになりました。特筆すべき特徴や芸があるわけではないものの、より身近に感じることができる芸能人を好む消費者は多いようです。

圧縮陳列

店内に商品を所狭しと並べ、利用客を取り囲むような陳列をしている小売量販店があります。これは、店舗面積が狭いことが理由ではなく、販促手法の一つとして実践しているようです。

土産物／名物

観光地の土産物や名物には、包装が簡易的なものが多くみられます。また、デザインもシンプルなものが多いようです。これは、包装の制作時に十分な時間や予算を充てられなかったことが理由であると推量できます。しかし、メディアで紹介され有名になり、それなりの売上が見込める用になったあとでも、同じ包装デザインを続けていることが多く、歴史や田舎の風情の演出として、意図的にそのデザインにしているようです。

アウトレット商品、ワケあり商品

型落ち品や正規の商品としては販売できない商品を集めて、通常よりも安い価格で販売するのがアウトレットショップですが、アウトレットショップ用に商品を開発／製造／販売するケースがあります。また通常の価格で販売できる商品であっても、あえて「ワケあり商品」と銘打つことで、売上が伸びることもあります。

CtoC

ネットオークションやフリマアプリなど、いわゆるCtoCで売買している出品者や購入者の何割かは、実際に店舗を持ったり独自のオンラインショップを運営するいわば「プロ」です。CtoCのサービスを利用することで、本業とは違うスタンス（保証なし、ノークレームノーリターンなど）でビジネスを展開しています。

なぜ「擬似素人効果」が有効なのか？

前述のように、擬似素人効果はひろく使われ、その効果も十分に認められているようです。それではなぜ、これが有効なのでしょうか。

安い印象を与え、商業主義／営利主義ではないように見える

同じ価格のものでも、擬似素人効果を使うと消費者は安いと感じることがあるようです。また、商売に慣れていない雰囲気を与えることで、掘り出し物を見つけたという喜びや、お買い得感を与えることもできます。

幼さの演出、身近な印象を与える

消費者は子どもや初心者など、弱者に対して強い攻撃をすることはありません。これを利用して、権威の看板をはずすと、想定外の批判やクレームを避けることができ、スムーズにビジネスを進めることができます。また、商品やサービスをより身近に感じることができ、消費者に選ばれやすくなる効果もあるでしょう。

わびさび、へうげもの

日本には元来、不完全なものを愛する文化があります。すこし素人くさい方が、親しみが持てるのかもしれません。

飽和しているから

完成度の高いものは世の中に溢れており、飽和状態にあります。ここから頭一つ抜け出すために、本流から意図的に外したマーケティングも頻繁に行われています。

擬似素人効果の分類

デザインの詰めがあまい

余白のとり方や位置の揃え、フォントの種類など、デザイン的に改善点がある場合。

例）土産物、ポスティング広告

完成度、機能、サービスが不十分

モノとしての完成度や機能が十分ではない場合。

例）素人風芸能人、ディフュージョンブランド（低価格帯のブランド）

瑕疵がある

商品やサービスに何らかの瑕疵がある場合。

例）アウトレット、ワケあり商品

提供する情報が不足している

必要な情報が不足している場合。

例）家電販売店の価格表示、CtoC

提供する情報が過剰である

情報過多の状況を作っている場合。

例）圧縮陳列、折込広告

擬似素人効果をより戦略的に使う

本当に売りたいものへの入り口として

売りたい商品やサービスの新規顧客獲得のために、擬似素人効果を利用して少しクオリティの低い商品やサービスを提供する方法です。機械であれば機能を限定したり、服や鞄ではデザインや生地の質を落とすなどして価格を抑えることで、短期的には売上を増やし、長期的にはブランドのファン層を広げる事ができます。

擬似素人効果を逆手にとる

これまで挙げた「擬似素人効果」の手法と逆のことをすれば、「高級感」を演出することができます。