初等教育からの英語学習について考える
初等教育からの英語学習を推進する
中学校からでは遅かった
小学校5、6年生を対象に英語が教科として必修化された2011年以前でも、多くの人が中学、高校、大学進学後も英語を学んできました。ところが日本人は「英語を話せない」というコンプレックスを抱えています。これは、英語と日本語の構造の違いが原因であると考えられます(参考01)。しかし、日本語と同じ構造の言語を用いる韓国では、2020年のTOEIC平均スコアが683点であり、日本の平均スコアを150点近く上回っています(参考02)。韓国では1997年以降、小学校3年生から英語を必修科目としてきたことが日韓の得点差の理由であると推量できます。また、日本の中学校で行われてきた「読み、書き」中心の形ではなく、韓国では「聞く、話す」に重点を置いて英語教育を進めています(参考03)。日本でも、英語学習の開始年齢を引き下げ、楽しくコミュニケーションをする形の教育を導入することによって、英語学習の効果向上を期待できます(参考04)。
ためらわずに話せる
思春期になると、人前で外国語を話すことに対して心理的なハードルが上がるため、とくに発音については、早い時期から練習を始めることが重要です。英語を勉強と捉えて、「上手く話さなければ」「間違えてはいけない」とテストのように評価を意識してしまうことや、羞恥心が邪魔をしてネイティブのような発音を目指せなかった経験は多くの人にあるはずです。また、英語で何かを伝えたい場合に「日本語ならここまで言えるのに、英語ではできない」というストレスも感じます(参考05)(参考06)。しかし、年齢が低ければ、母国語の習得レベルもそれほど高くない状況であることから、英語に対する苦手意識を軽減できるのです。
国際人を目指すために
国内では高く評価される東京大学も、2023年の世界の大学ランキングでは39位という結果でした。中国の精華大学と北京大学がそれぞれ16位と17位、またシンガポール国立大学の19位と比べても低い評価です(参考07)。日本の人口は減少傾向が続いていることもあり、進学先や将来の生活の基盤として海外を視野に入れることも現実的な選択となっています。国際的な大学入学資格、いわゆる国際バカロレア資格を目指すために(参考08)、たとえ母国語が片言になっても幼少期から英語の習得を優先し、英語で思考できる国際人を目指すことも有意義と言えるでしょう。
参考資料
- 参考01「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」株式会社研究社
- 参考02「2020年 TOEIC® Listening & Reading Test 世界の受験者スコアとアンケート結果を発表」IIBC 一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
- 参考03「韓国における小学校英語教育の現状と課題」文部科学省
- 参考04「教育心理学的観点から見た今後の小学校外国語指導の方向性」国立情報研究所
- 参考05「発音練習課題が、英語発話行動の積極性に及ぼす影響I」国立研究開発法人科学技術振興機構
- 参考06「日本人が『いつまでも英語を話せない』悲しい原因/東洋経済オンライン」株式会社東洋経済新報社
- 参考07「世界大学ランキング2023/高校生新聞オンライン」株式会社スクールパートナーズ
- 参考08「IBとは/国際バカロレアについて」文部科学省
初等教育からの英語学習を推進しない
早期に行う優位性がない
外国語の習得には「5歳までに学習を始めれば、ネイティブの発音が身につく」などの「臨界期仮説」が存在します。しかし臨界期についての説は本来、母国語の習得について述べられたものだと言われています。つまり、日本で生活し、日本語を話す両親のもとで外国語として英語を学ぶ場合には、当てはまりません(参考01)。もちろん早い段階で多くの英語をインプットして発話していくことが、ネイティブの発音に近づける条件の一つですが、本当に求められている英語力は何なのかを考える必要があります。
ネイティブの発音よりも役立つ英語を
英語は世界で最も話されている言語であり、80億人近い世界人口のうち、およそ13億人が使用しています。ところが、英語を母国語としているのは3.7億人であり、北京語の9.2億人、スペイン語の4.7億人に次いで世界3位です。つまり、英語話者のうちネイティブである割合は、4分の1以下なのです(参考02)。たとえば、ITの分野で世界的に活躍する人材を多く輩出しているインドでは、イギリス領であった歴史があるにも関わらず、キングス・イングリッシュとは似ても似つかぬ個性的な英語が使用されています(参考03)。ネイティブの発音に拘るあまり、母国語の学習が中途半端になってしまっては本末転倒です。また、高度な内容の英語を理解するには、母国語の習熟度が高まってからの方が学習効果が高いという調査結果があります(参考04)。
本来の目的
TOEICの平均スコアが世界2位のフィリピンでは(参考04)、民族や地域ごとに180もの言語が存在します。そのため、国語はフィリピノ語ですが、公用語はフィリピノ語と英語であり(参考05)、他地域や他民族とコミュニケーションをとる場合には英語が使われることの方が多く、また10人に1人が海外に出稼ぎしていることから(参考06)、英語は日常的でかつ必要な言語なのです。対して日本では、人口減少傾向が続いていますが、1億人以上の人々のほとんどが日本語を話し、日本語が通じる環境であることから、英語はあくまで外国語の域を出ません。まずは自らのルーツに重きを置きながら、母国語を大切にし、自国の歴史や文化についてよく学んだ上で、それを外部に伝えられるようになることこそ、真に目指すべき国際人の姿であると言えます。
参考資料
- 参考01「優秀な親ほど勘違いしがちな英語学習にまつわる『2つの誤解』とは?/ダイヤモンド・オンライン」株式会社ダイヤモンド社
- 参考02「【世界の言語】使用人口と使用状況/翻訳商社」ノーヴァネクサス株式会社
- 参考03「英語はこれからも世界の『共通語』でいられるのか/BBCニュース」BBCグローバルニュースジャパン株式会社
- 参考04「英語の早期教育に英語の専門家がこぞって反対する理由…『勉強ができない子』量産の危険/ビジネスジャーナル」株式会社サイゾー
- 参考05「2020年 TOEIC® Listening & Reading Test 世界の受験者スコアとアンケート結果を発表」IIBC 一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
- 参考06「フィリピン基礎データ」外務省
- 参考07「フィリピンの小学校英語教育事情/ジュニア留学.NET」株式会社ウインテック