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国連について考える

国連について考える
前提となる事実
現在の「国連(国際連合)」は、軍事介入などが行えなかった「国際連盟」が第二次世界大戦の勃発を防げなかった教訓をふまえて、1945年に設立されました。ユニセフ、ユネスコなどの補助機関や世界銀行などの関連機関を通じて、教育や文化、経済の支援をグローバルに行っています。一方で、2022年、ロシアにウクライナからの「無条件撤退」を求めた国連の決議は、常任理事国のロシアが拒否権を行使したことで否決されました。また、2023年、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突に関して「無条件の即時停戦」を求めた決議では、常任理事国であるアメリカが拒否権を行使するなど、国連の主たる目的である「国際平和と安全保障」の活動に問題が生じています。

国連は必要である

「平和」が示す範囲は広い

国連は、紛争や戦争に限定しない「平和」という抽象的概念の実現に、包括的に取り組める組織として重要です。例えば1960年代には、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)体制の非人道性や不公正について大きく取り上げ、世界に関心を促しました。また、各国の武器や石油の禁輸による反アパルトヘイト活動を支持し、人種分離型のスポーツ大会を禁じる条約を制定するなどして、1994年にアパルトヘイト制度が撤廃されるまで大きな役割を果たしました(参考01)。現代では、紛争やテロによる死者数よりも、殺人による死者数が上回っています。また、男尊女卑の思想が根深い低所得の国や地域では、女性や女児にとって家庭内が最も暴力に晒される場所であることなどをふまえると、世界的な「平和と安全」の実現には、貧困や差別をなくしていく必要があります(参考02)。そのような、グローバルかつドメスティックな範囲までを対象に、活動を推進できる国連の存在意義は必要不可欠です。

これまでの実績も評価されるべき

良いニュースは、悪いニュースと比べて取り上げられにくい傾向があります。とくに国連の場合、企業のようにその功績を大きく宣伝して回るような性質の組織ではないため、ポジティブな事実を広く知られる機会があまりありません。しかし、これまでに多くの和平仲介や平和維持活動を行い、国際紛争の解決に貢献してきました。具体的には、アフガニスタンやスーダンの南北紛争などが挙げられます。国連の活動の結果として、1990年以降、全世界での紛争件数は40%減少しています。また、国際原子力機関(IAEA)を通じた核拡散を防止する活動や、アフガニスタンやボスニア・ヘルツェゴビナ、スーダンなど30の国と地域で地雷の除去を行うなど、紛争を未然に防ぐ取り組みと、事後の復興に向けての支援も行っています(参考03)。また、自然災害が発生した場合、被害地域への迅速な援助は知られるところです。例えば、2011年の東日本大震災では、日本もWFP(国連世界食糧計画)などの国連の機関から様々な支援を得られました(参考04)。

何事も一足飛びにはいかない

ロシアによるウクライナへの侵攻についても、当事者国以外の多くの国の利害が絡んでいること、またロシアが核保有国であり、その使用をほのめかしていることなどから、他のどのような機関や大国であっても完全撤退という最善策を実現することは、おそらく不可能です。また、ロシアを常任理事国から外すような方法を用いた場合、ロシアを孤立させ、暴走させてしまう危険を孕んでいます(参考05)。そのため決議にもどかしさがあっても、いわゆる冷戦時代以降における西側東側諸国だけでなく、現代では発言力のある産油国を含めた新興国など、あらゆる立ち位置の国が加盟している機関によって、交渉が可能な場を維持する必要があります(参考06)。現在起こっているような諸問題を、一気に解決まで導ける組織はありません。国連が和平に向けて一歩一歩、わずかでもベターな状況を模索していくほかないのです。

国連は不要である

いまや、常任理事国のための機関である

国際的な紛争の解決に国連が動く場合、常任理帰国(アメリカ、中国、フランス、イギリス、ロシア)の利害が中心となり、必ずしも紛争の規模と国連の活動量とが一致していません。例えば、「ホテル・ルワンダ」「ルワンダの涙」などの映画作品を通じて世界的に知られるようになった、ルワンダでの大虐殺(1994年)での死者数は、調査によってばらつきはありますが、100日間で少なくとも50万人以上に及ぶとされています。国連は、ルワンダ政府から早い段階で要請を受けていたにも関わらず、有力国からの協力を得られずに積極的な介入をせずに終わっています(参考01)(参考02)。

影響力の低下

国連が設立した1945年と比べて、現代の脅威は複雑化しすぎています。そのため、国連(=有力国)が紛争に積極的に介入しても、政治や治安の混乱から回復できない事例もあります。具体的には、2011年のリビア内戦では、国連安全保障理事会の決議に基づいて、NATO諸国、なかでもアメリカ、イギリス、フランスを中心に軍事介入を行い、結果的にジェノサイド(大量虐殺)を行っていたガタフィ政府は崩壊しました(参考03)。その後、混乱が続くリビアに対し、国連主導で2016年に「国民合意政府」が設立されましたが、政府の統治は首都周辺のみにとどまり、軍事組織「リビア国民軍」との紛争状態に再び陥りました。2020年に停戦が発効されたものの(参考04)、一国二政府の不安定な状態が続いています(参考05)。そもそも、2011年の軍事介入が、よりリビアの混乱を強めてしまったという見解も存在します(参考06)。ちなみに有力国が、リビアへの介入に積極的な理由として、リビアがアフリカでも有数のエネルギー資源(石油や天然ガス)を持つ国であることが挙げられます(参考07)。

「拒否権」の行使による機能不全

安全保障理事会の常任理事国であるアメリカ、中国、フランス、イギリス、ロシアの五大国による軍事侵攻がなされた場合、国際社会や国連はそれを抑止できない状態にあります(参考08)(参考09)。実際に、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻(ロシア・ウクライナ危機)した際に、国連では緊急会合が開かれ、ロシアに自制を求めましたが、10分後にロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面侵攻を宣言をしました。ロシアは核保有国であり、かつ安全保障理事会の常任理事国としての「拒否権」を所持しているため、国連安全保障理事会においてのロシアに全面撤退を求めた決議は否決されました。その後、国連では総会(常任理事国以外の加盟国)による決議が行われ、改めてロシアに撤退を求めましたが、常任理事国による決定ではないことから、国連の軍事力などを動かすことは不可能であり(参考09)、第二次世界大戦前の「国際連盟」と同じく事実上の機能不全に陥っています。新興国であり、核も保有するインドが近年常任理事国入りを求めていますが、自国の利害に応じて「拒否権」を行使できる国が増えた場合に、ますます紛争解決への行動が制限される可能性が高まります。また、公正さを保つために常任理事国を交代制にした場合も、リビアのような政府が脆弱な国にその立場を任せるのはリスキーです。

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