SNSの匿名性について考える
SNSの匿名性は必要
リスク回避と実名公開への抵抗感
利用者を守るために、SNSでの匿名性は重要です。個人を特定されてしまうと、投稿した内容や写真などの情報と紐づけされて、ストーカーや特殊詐欺の被害に発展するケースもあるからです(参考01)。また、総務省の調査では、インターネット上の実名公開について「抵抗感がある」と回答した人は、諸外国では3〜4割であるのに対して、日本では6割を超えていました(参考02)。事実、2022年時点での利用者数が約29億人にのぼる世界最大のSNSであるFacebookは(参考03)、実名登録を基本としているせいか、日本での利用率は25%以下です。TwitterやInstagramの利用率が50%を超えている点からも、匿名性の低いFacebookの利用率の低さは顕著です(参考04)。
発信よりも閲覧がメイン
情報収集のツールとしてSNSを用いるなら、あえて実名を出す必要はありません。2021年の消費者意識調査によれば、SNSを利用する人の8割以上が情報収集を目的としており、情報の発信や共有を目的とする人は2割未満でした(参考05)。また若年層ほど、複数のアカウントを保有している割合は高く(参考06)、高校生のおよそ5割が、閲覧用のアカウントと発信用のアカウントを使い分けています(参考07)。
匿名によって出せる本音
SNSの利用者の7割以上が、名前や顔を知らない相手に対して「言いたいことをいいやすい」ことが、第一生命経済研究所の調査で分かりました(参考08)。また、思い描いた理想の自分を演出できる魅力もあり、匿名による交流の満足度につながっています(参考08)。一方で、そのような承認欲求からも解放されたい「SNS疲れ」の若者の間では、より匿名性の高いSNSの需要が高まっています(参考09)(参考10)。自分も相手も何者か分からないからこそ、評価に縛られず、等身大のコミュニケーションが実現しているのです。
参考資料
- 参考01「プライバシー公開の危険性」国民のためのサイバーセキュリティサイト/総務省
- 参考02「平成26年版情報通信白書/インターネットリテラシーの重要性」総務省
- 参考03「令和4年版情報通信白書/国内外におけるサービス・アプリケーションの動向」総務省
- 参考04「2022年度SNS利用動向に関する調査」ICT総研
- 参考05「令和3年消費者意識調査/調査結果の概要」消費者庁
- 参考06「若年層ほど『複垢・サブ垢』傾向:10代の女性の約7割がInstagram、約6割がTwitterアカウント2個以上所有」モバイル社会研究所
- 参考07「SNSで複数アカウントを使い分ける高校生、大人より進んだ意外な活用方法」日経クロステック
- 参考08「匿名コミュニケーションの対人距離感―日本のソーシャルメディアに関する一考察―」宮木由貴子/第一生命経済研究所
- 参考09「コミュニケーションアプリ、匿名系にユーザー集まる」日本経済新聞
- 参考10「Z世代の“SNS疲れ”から生まれる一人行動ニーズ~SNSは若年層における情報収集のメインツールになっている~」野村総合研究所
SNSの匿名性は不要
情報の信頼性を高めるため
SNSでは共感性や面白さを基準に評価したり共有されたりする傾向にあり、その真偽は軽視されがちです。そのため、信憑性に欠ける情報でも容易に拡散されてしまいます(参考01)。近年SNSをきっかけとしたトラブルが増加しており、2021年に消費者庁へ寄せられた相談件数は約5万件と過去最多でした(参考02)。被害の多くは、偽の通販サイトへの誘導などの詐欺であるため、匿名性が隠れ蓑として悪用されています。また、情報収集のためにSNSを利用する場合でも、その信頼性や安全性は保証されるべきであり、匿名性の見直しは有効な手段と言えます。
誹謗中傷の抑止策として
責任を見えづらくする匿名利用を制限すれば、誹謗中傷の抑止効果を期待できます。2021年に寄せられたインターネット上の違法・有害情報に関する相談のうち、4割は「名誉棄損」でした(参考03)。この問題は子どもたちにも波及しており、パソコンや携帯電話を使ったいじめは同年に2万件以上認知されています(参考04)。悪質な投稿が拡散され、特定のアカウントに非難が殺到する「炎上」も被害を深刻化させています(参考05)。匿名空間での「本音の言いやすさ」は、同時に思慮の浅い、無責任な発信にもつながっているのです(参考06)(参考07)。
実名で強化されるつながり
現実でのつながりを強化するために、実名アカウントを積極的に活用する動きもあります。ビジネスパーソンの間では、実名で情報発信し、仕事の獲得やキャリアアップを目指すアプローチが今や珍しくありません(参考08)(参考09)。2020年には、就職活動を控えた学生の6割が、企業への自己アピールや人脈作りを期待し、実名アカウントの利用を検討していました(参考12)。若年層ほどSNSで実名を出し、身近な友人とコミュニケーションをとっているという実態も明らかになっています(参考11)。現実と地続きの交流をSNSに求める場合は、信頼を得やすい実名が必要になるのです。
参考資料
- 参考01 「平成27年版情報通信白書/SNSでの情報拡散の状況」総務省
- 参考02「令和4年版消費者白書/SNSに関連する消費生活相談」消費者庁
- 参考03 「令和3年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書(概要版)」総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課/総務省
- 参考04「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」文部科学省
- 参考05 「平成27年版情報通信白書/問題の背景」総務省
- 参考06「匿名コミュニケーションの対人距離感―日本のソーシャルメディアに関する一考察―」宮木由貴子/第一生命経済研究所
- 参考07「ネットの中傷、あなたは?『匿名空間』がもたらす問題」朝日新聞デジタル
- 参考08「ビジネスに活用!実名SNS『見つけてもらえる』ために『自分を整える』3つの工夫」NIKKEIリスキリング
- 参考09「SNSは実名で!ビジネスパーソンが仕事やキャリアアップにつなげる具体的な方法」アエラドット
- 参考10「就活に実名のアカウントって必要ですか?」NHK就活応援ニュースゼミ
- 参考11「SNSを平気で使う若者。理由はリアルと地続きだから」ASCII.jp